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第031-0話 裏目に好かれる人生

作者: 百舌巌
last update 最終更新日: 2025-02-03 10:31:38

翌日。

 ディミトリは祖母に具合が悪いので、病院に寄ってから学校に行くと伝えた。

 心配して付いてくると言い張る彼女を説得して、一人で出掛けたディミトリは家電量販店に居た。

 ここで小道具の材料を調達するためだ。今回はどう考えても罠にハマりに行くのだ。下準備無しで乗り込むほど自信家では無い。

 彼が購入したのはレーザーポインターだ。それと玩具のリモコンも購入した。このリモコンでスイッチを操作するのだ。

 レーザーポインターは名前の通りレーザーの強烈な光でポイントを示す物だ。普通に使えば便利な道具だが、カメラにとっては脅威となる代物だ。

 レーザーポインターをカメラのレンズに向けて照射する。すると、カメラの中にある電子素子(LCD)は強烈な光で飽和してしまう。つまり、映像をまともに作れなくなってしまうのだ。

 これは空き巣や銀行強盗などの時に、防犯カメラを無効にさせる為に使われる手口だ。本格的なやつは赤外線レーザーを使う。カメラに付いている電子素子(LCD)が早く飽和するからだ。

 目的のものを入手したディミトリは、そのまま例の廃工場に向かった。前日に開けておいた裏口を通り、カメラが設置されている場所までやって来た。

 そして、床に積もった埃に異常が無いのを確かめると、今度はカメラがレーザーポインターで狙い易い位置にやってくる。そこには埃だらけの元資材が積み上げられていた。

 手のひらに入る程度のレーザーポインターなので隠すのは簡単だった。

(よし、仕掛けは出来た……)

 ディミトリはレーザーポインターをダンボールの影に隠して学校へと向かった。どうせ使い捨てなので見てくれは気にしていない。

 道具は役に立ってこそ意味があるとディミトリは考えていた。

 午後から登校したディミトリは何事もなく過ごした。そして、下校時間になると大串の方から声を掛けられた。

 大串は時間をずらされて焦っているようだ。そして、ディミトリが受け渡し場所に下見に行った事には気が付いてないようだった。

「今日はちゃんと来いよ」

「ああ、今夜は何時頃行けば良いんだ?」

「夜の七時に俺の家に来てくれれば田口の兄ちゃんが車で送ってくれるってよ」

 田口というのは子分の一人だ。クラスメートなのだがディミトリは初めて名前を聞いた気がしていた。

「そうか、分かった……」

 ディミトリは素っ気無く返事をした。

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    モロモフ号の甲板の上。 ディミトリはアオイの言った『取引に使うお金』に魅入られていた。「いやいやいやいやいや、駄目だ」 ディミトリが首を振りながら否定した。 確かにここで多額の現金を手に入れるのは魅力的だ。だが、アオイを守りながら戦闘するのは、余りにも分が悪すぎる。 確実に金になる戦闘しかディミトリはやらない。(やっぱり駄目か……) アオイとしては、船底に閉じ込められている子供を助ける事で、贖罪を果たしたかったのかも知れない。 だが、肝心の少年が腰が引けている以上は諦めるしか無いかと思った。「じゃあ、私はゴムボートで待っていれば良いのね?」「いや、近くにアカリさんが待っているから、彼女と合流していて欲しい……」「え? アカリが居るの?」「ああ、どうやって君が居る船に辿り着いたと思ってるの」「あっ、そうか」「この携帯で連絡を取って待っていて欲しい。 あの桟橋を回り込めば陸に上がれる階段が有るから……」「うん、分かった……」 アオイは縄梯子をそろそろと降り始めた。ディミトリは上から降りていくアオイを見ている。キンッ 船の手すりを金属製の何かが掠める音がした。間違いなく銃弾だ。(銃撃!) ディミトリは咄嗟に撃ち返した。発射音は聞こえなかった。恐らく見張りに見つかってしまったのだろう。「見つかった!」「え、え、ええ……」 アオイはまだ縄梯子の半ば辺りだ。降り終わるのにまだ少し時間がかかる。 ディミトリは姿が見えない敵に銃弾を送り込んだ。 命中させることが目的では無い。アオイがゴムボートに乗るまでの時間稼ぎのためだ。(敵もサプレッサーを使っているのか……) その時、埠頭に灯りが倒れていく男を映し出した。紛れ当たりを引いたようだ。(俺も使ってるぐらいだから当然だわな) ディミトリは男に近寄っていく。死んだかどうかを確かめるためだ。(角度から考えると船の壁で跳弾したのが当たったのか……) 傍によると男は首から血を流して死んでいる。当たった場所から考えると跳弾であろうと思われたのだ。 ディミトリは男の銃と予備の弾倉を取り上げて眺めた。(トカレフか……) 無いよりはマシかと懐にしまった時に、海の方からアオイの悲鳴が聞こえた。「きゃあっ!」 ディミトリが慌てて駆けつけると、上のデッキからゴムボートに向かって銃を撃

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    モロモフ号。 船室の外に居た見張りは壁にもたれ掛かるように倒れている。その頭からは血が流れていた。 不意に少年が現れて問答無用で撃ってきた。声を上げる暇すらなかったようだ。彼は驚愕した表情のままだった。「若森くん……」 アオイは突然の登場にビックリしながらも、見慣れた顔の登場に安堵のため息を漏らした。「ちょっと、足を持ってくれるかな?」 ディミトリが手招きしてる。「?」 アオイが近づいて廊下を見ると見張りが倒れている。頭から血を流している所を見て、アオイは射殺されたのだと理解した。「顔が腫れているけど殴られたの?」 アオイの左頬が腫れているので聞いてみた。「うん、大声出して助けを呼んでたら殴られた」「女でもお構いなしかよ。 ヒデェ連中だな……」 ディミトリは見張りが持っていた拳銃を眺めながら呟いた。「連中は俺の事を探してるんだって?」「ええ、ロシア人が貴方の事をしつこく聞いてきた」 見張りの死体を運びながらそんな会話をする二人。アオイも死体を見たぐらいでは驚かなくなっている。 アオイも死が身近にある職業だとはいえ、慣れていく自分にどんよりとした気分になっていくのを感じている。「何、やったの?」 アオイが足を持ちディミトリが頭を持って死体を部屋の中に入れた。「ロシア人の母親とヤッたんだよ」「馬鹿……」 ディミトリはアオイに小突かれてしまった。彼女は下品なジョークが嫌いなようだ。 次にテーブルクロスで廊下の血痕を拭い去り、部屋を閉めて出ていこうとした。「ちょっとだけ待って……」 ディミトリは鍵を掛けてから、鍵を根本から折ってあげた。こうすると、室内に入ることが出来ない。本当は瞬間接着剤ぐらいで固定した方が良いのだがしょうがない。 アオイが部屋に居ない事は直ぐに露見してしまうだろう。少しでも時間を稼ぐ為の小細工だ。「まあ、お互いに聞きたいことは山程あるだろうけど……」 まず、何故引っ越したのか問い詰めたかったが、先に逃げ出すのが先だ。 敵の人数すら分からないのに彷徨くのは流石に拙い。金の行方は後で聞けば良いとディミトリは考えたのだ。「?」「とりあえず、逃げ出そうか?」 ディミトリが先に歩き、アオイは彼の後ろを付いて行った。「どうやって逃げるの?」「この船の傍にゴムボートを繋いである」「え?」「舷門(

  • クラックコア   第057-0話 自戒の念

    モロモフ号。 ディミトリは船の後方にボートを付けた。係留ロープを結びつける場所がないので、ロープの先に磁石を付けて船に貼り付けた。 これでボートは行方不明にならないはずだ。 それから、吸盤を取り出し船を登り始めた。 まず、右手側を貼り付けて、それを手がかりに左手側を上に貼り付ける。右手側を緩めて左手を手がかりにして上に貼り付ける。 そうやって、交互に貼り付ける事によってよじ登っていくのだ。手の力だけなので結構しんどいものがある。 それでも、何とか登りきって船の舷側から甲板に降り立った。 ディミトリは懐から拳銃を取り出した。警戒したままで、ゆっくりと歩きながら入り口に向かう。 ここで、見つかれば道に迷ったなどと言い訳が効かないからだ。 出発前に見かけた船の見張りは反対側にいるのか見当たらなかった。つまり、常時警戒しているのは一人ということだろう。 最低でも二人は見張りに付くものだと思っていただけに拍子抜けした。 船の中に素早く入ったディミトリは奥に進んでいく。遠くの方で話し声が聞こえるだけで、後は何かの振動音がするだけだ。 今の所、船が侵入されたなどと誰も気付いていないようだ。手短に船内を見て回るつもりだった。  人の声がしていたのは食堂と思われる部屋だ。灯りが点いているので何人かいるらしかった。 ディミトリが入り口の傍によると、中からロシア語の会話が聞こえてきた。『日本のカイジョウホアンチョウの検査は終わったんだろ?』『ああ、連中は気が付かなかったぜ』『じゃあ、さっさと荷物を受け渡してしまおうぜ』『連中に悟られ無いで助かったな……』『ああ、まさかブツを船底に貼り付けて運んでるとは思わないもんさ』(ふん、ソコビキって取引のやり方か……) ロシアの留置場に入れられた時に、隣の房に居た薬の売人に運搬方法を聞いたことがある。その一つに『ソコビキ』と言うやり方にそっくりだった。方法は簡単で薬なり銃器なりを防水箱に入れ、船の底に溶接してしまうのだ。見た目はスタビライザーに見えてしまうので誤魔化しやすいそうだ。(くそっ、ひょっとして違う船だったのか?) 彼らが話していたのは違法薬物か何かの取引らしい会話だった。興味が無いので他の部屋を探しに行こうとした。『ところで例の女はどうしてるんだ?』 中に居る一人が話し始めた。ディミトリ

  • クラックコア   第056-0話 モロモフ号

    アカリの車。 サプレッサーを作り終えたディミトリはアカリに向かえに来てもらった。 これからアオイが閉じ込められている船を調べる為だ。車を走らせながらアカリに色々と聞き出しす。「どこの港に連れて行かれるか聞いた?」「いいえ」 車に強制的に乗せられて、直ぐにディミトリが追いかけたので詳しい話は出来なかったそうだ。 ただ、彼らがアオイと確保している事と、中学生の男の子を誘い出して欲しいとだけ言われたようだ。 彼らは只の使い走りのようで、若松忠恭の顔を知らなかったのは幸いだった。「じゃあ、車の中の様子で覚えていること無いかな?」「そう言えば、カーナビに臨海港って表示されていた」 メールか何かでアカリの居場所を教えられて、彼らはカーナビ頼りに走っていたのだろうと考えた。「ん? そう言えば奴らはアカリさんの顔を知ってたんだよね?」「ええ、スマートフォンに私の画像が有りました……」 見せられたのは、自分の画像とアオイの画像だったそうだ。「しかし、臨海港って言っても大きいよなあ……」 ディミトリたちは船であるとしか知らない。他には、相手がロシア系であるぐらいだ。「入港したばかりみたいな話をしてた」「ふむ、日付で検索してみれば良いか……」 ディミトリは携帯で船の入港情報を探り始めた。何か、手がかりが欲しかったのだ。「これかな…… 名前がそれっぽい……」 ディミトリが指差す先には『ナホトカ・モロモフ』とあった。とりあえずは見に行って見ることにした。 本来なら一週間ぐらいは観察をして、人数ぐらいは把握したかったが時間が無い。 アオイが人質にされているせいだ。「キプロス船籍で石炭運搬船とあるな……」 ディミトリは画面を見ながらブツブツ言っている。他にも船はあったが全体的に小さめの船ばかりだ。 きっと、外洋を渡るので大きい船だろう。「とりあえずはコイツに忍び込むか……」 ダメ元で乗り込むつもりだった。「ちょっと、寄り道してもらっても良いなかな?」「良いけど、何するの?」「ちょっと、お買い物……」 まず、釣具店に行きゴムボートを購入した。長さが二メートル程度で二人乗り。手漕ぎだが大した距離を漕ぐ訳では無いので平気だ。 目的の船にはロシア系の連中がいる。そして、彼らはディミトリが訪問するのも知っている。 大人しく入れてくれる訳が

  • クラックコア   第055-0話 お互いの立ち場

    自宅。 ショッピングセンターで乗り換えた車でアカリの車を取りに行った。いつまでも乗ってる訳にいかないからだ。 場所はアカリが誘拐されかかった場所だった。時間貸しの駐車場に停めていたようだ。「なんで、あそこに居たの?」 道中、ディミトリは気になっていた事を聞いてみた。「ん? 留学の下準備に行ったのよ」 ディミトリが見張っていた雑居ビルには、留学のコーディネーターが居るのだそうだ。 今日は打ち合わせに訪れていたらしい。「ふーん…… ところで、お姉さんはどこに引っ越したの?」「え……」 アカリは言葉を言い淀んだ。その様子から口止めされているのだろうと推測出来た。「ああ、言いたく無いのなら無理に言わなくて良いよ」 ここは無理する場面では無いと思い言い繕った。変に疑念を持たれて逃げ出されては金が手に入らなくなってしまう。 ディミトリは慎重に話を運ぶことにしていたのだ。「ゴメンナサイ……」「まあ、俺が君の立ち場だったら、こんな危ない奴と付き合うのはゴメンさ」 ディミトリは笑いながら答えた。アカリは俯いてしまっている。「駅前に漫画喫茶あるから、そこで待っていてくれる?」「はい」「ちょっと、家に用があるんだ。 それが済んだらお姉さんを助けに行こう……」「分かった」 アカリはディミトリを家に送った。降り際にディミトリは自分の携帯を渡した。アカリが使っている携帯は監視されている可能性が高いからだ。そして、そのまま漫画喫茶に向かっていった。 ディミトリにはどうしても自宅でやらなければならない作業がある。サプレッサー事だ。壊れたままでは拙い。 アオイを救出する際にはサプレッサーが必要になるのは目に見えている。その為にサプレッサーを作成しなおす必要だあるのだ。 自宅に帰ったディミトリは早速3Dプリンターでサプレッサーを作り始めた。 中身の構造を練り直す暇が無いので、複数個持っていく事にしたのだった。 今回持っていったサプレッサーを分解してみると案の定中で割れていた。やはり熱でやられるのは変わらないようだ。 それでも金属のケースには歪みは無かった。(サプレッサーが長持ちしなかったのは、蓋の構造が駄目だったんだろうな……) 銃弾を通すために穴に防音効果を高めるための硬質ゴムで蓋をしてある。ドアの様に銃弾が通過した後に塞がるようにしてある

  • クラックコア   第054-2話 怪訝な表情

    「……」 その様子を見ていたアカリは、ディミトリが何をしようとして居るのか理解出来た。映画なんか良く見かける車泥棒のやり方だ。 しかも、彼は手慣れている感じだった。 初めて逢った時には銃で撃たれていた。姉によると腕から何か不思議な装置を取り出す手伝いをさせられたとも言っていた。 そして、夜中に廃工場を見張ったり、不思議な行動をする少年なのだ。(本当にこの子は中学生なの?) 姉が少年を怖がっていた理由はこれなのだろうと確信したのだ。(この子は目的の為には、悪事であろうと躊躇する事は無い……) しかし、アカリはディミトリがする事を咎めるのは止めにしている。言っても聞かないだろうと分かっているつもりだからだ。 それよりも、気がかりなのは自分を連れ去ろうとしていた男たちが、姉を拘束していると言っていた事だ。 事実、連絡がつかない点も気になっている。本当に拘束されているのなら、不思議少年の手助けが必要なのだ。「僕は一旦自分の家に帰る必要が有る」 ディミトリは車を走らせはじめた。本当はアカリに運転して欲しかったが、彼の事を怪訝な顔で見ているからだ。 まあ、自動車の窃盗を目の前で見せられて平気な方がおかしい。 それで、しばらくは自分で運転する事にしたのだった。「どこか逃げ込める宛は有るの?」「ええ、友人の家に行こうかと……」「それは駄目だ……」「どうしてなの?」「彼らは君を何らかの方法で追跡している」「え?」「じゃなかったら、どうやって君に辿り着いたのさ?」「あ……」「その友人を巻き込むのは関心しないね……」「……」「携帯電話は持ってる?」「ええ」「じゃあ、電源切ってくれる?」「はい……」 ディミトリは携帯電話の位置確認を利用していると睨んでいた。 アカリはバッグから携帯を取り出した。「それ、お姉さんのだよね?」「はい、姉のアパートで間違えて持ってきてしまったんです……」「そうか……」 これで、アカリがアオイの携帯を持っていた謎が解けた。つまり、アオイはアカリの携帯を持っている事になる。 次はアオイの所在だ。逃げる時の会話でアオイは捕まったとアカリは言っていたのだ。「お姉さんは彼らに捕まったと言ってたよね?」「ええ。 大人しく着いてくれば、船で会えると言ってました」「船……」 ディミトリはロシア系の連

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